在庫が積み上がって資金が回らない、あるいは欠品で機会を逃している──そんな悩みを抱える事業者向けに、シンプルで続けやすい在庫管理の方法をまとめました。ポイントは、ただ在庫を減らすことではなく、在庫回転と発注ルールを両輪で整えることです。
この記事では、見える化の進め方、回転率と日数の計算、無理のない発注ルール、滞留在庫の処理まで、初心者にも実行しやすい手順で解説します。まずは現状を把握する小さな一歩から始めましょう。
優先順位の付け方

まずは「どこでお金と在庫が滞っているか」を見える化します。全体の数字とSKUごとの動きを同時に確認し、全体像で方向をつかんだらSKU別に具体策を落とし込みます。なお、月次で見る数字とSKU単位で見る数字は必ず同じ期間で揃えてください。
月次損益とキャッシュの基本チェック
売上とお金のズレを見る
売上は増えているのに手元の現金が増えない場合、在庫に資金が固定されているか、費用が先に出ていることが考えられます。毎月、「売上」「仕入」「出荷費」「販売手数料」「保管料」を横並びでチェックし、現金回収できる部分と固定的に出ていくコストを分けて管理しましょう。
在庫回転のシンプルな指標
在庫回転率と在庫日数は、在庫の流動性を示す基本指標です。計算式は以下の通り。
在庫回転率 = 期間中の売上原価 ÷ 同期間の平均在庫金額
在庫日数 = 期間の日数 ÷ 在庫回転率
例:月次で売上原価100万円、平均在庫50万円なら回転率は2回、在庫日数は30日÷2=15日。月に1~2回転が目安で、月0.5回転(在庫日数60日超)は要注意です。
保管や手数料の確認
保管日数に応じて追加料金が発生するサービスがあるため、公式の最新手数料は定期的に確認してください。手数料構造の変化が利益に直結します。
SKU別の売上と在庫日数の抽出方法
最低限そろえる項目をスプレッドシートで管理すると効率的です。
- SKU:商品識別番号
- 在庫数:現在の保有数量
- 在庫金額:仕入単価×数量
- 直近販売数(30日・90日など):期間を決めて集計
- 平均販売単価:売上額÷販売数
- 在庫日数:在庫数÷1日平均販売数
これだけで「売れている商品」と「滞っている商品」が一目でわかります。
詰まりの見つけ方と優先順位
在庫金額が大きいのに販売数が少ないSKU、在庫日数が極端に長いSKUを抽出して、金額インパクトの大きいものから対処します。効果が出やすい優先順を守ることが重要です。
原価を抜けなくするための計算と必須項目

「思ったより利益が残らない」を防ぐには、1点あたりの費用をもれなく数えることが第一歩です。売値を決める前に、入るお金と出るお金を明確に区分しましょう。
必ず含める費用項目の一覧
計算に入れるべき項目は次の通りです。公式の料金表や請求明細で定期的に確認してください。
- 仕入原価(為替や発注ロットも考慮)
- 仕入先から倉庫までの送料・関税(海外調達時)
- 出荷費(梱包材、ラベル、作業費)
- 販売手数料・決済手数料・出荷代行手数料
- 保管料(1点あたりを日割りで按分)
- 返品・不良の見込み(過去データを参考に)
- 広告や値引きの想定(クーポン等も反映)
全単位原価と貢献利益の計算式
全単位原価(1点にかかる総コスト)
全単位原価 = 仕入原価 + 入庫までの送料等 + 出荷費 + 保管料日割り + 手数料 + 返品見込み
貢献利益は次の式で計算します。
貢献利益 = 販売価格 - 全単位原価
在庫が長く寝るほど保管料や機会損失が増えるので、価格だけでなく回転速度も含めて判断してください。
出品前に使える価格チェックリスト
出品前に次の項目を確認するとミスを減らせます。
- 同等品の相場と自社の全単位原価の比較
- 相場から手数料を引いても利益が出るか
- 目標回転(例:月1~2回転)で保管料が膨らまないか
- 割引やクーポンを適用しても赤字にならないか
- 返品が出てもトータルでプラスか
- 長期保管に入る前に売り切れる見込みがあるか
発注ルールの作り方と在庫優先度の決め方

重要なのは「いつ、いくつ発注するか」を数字で決めるシンプルなルールを作ることです。迷いが減り欠品も起きにくくなります。
平均販売速度とリードタイムの測り方
平均日販(1日あたりの売れ数)は直近30〜90日の売れ数を日数で割って計算します。季節性がある商品は期ごとに分けて算出しましょう。
リードタイムは発注から入庫までの合計日数です。遅れが出やすい工程があれば余裕を持って設定します。
発注点と安全在庫の簡単な計算式
基本の発注点は次の式です。
発注点 = 平均日販 × リードタイム + 安全在庫
安全在庫は需要変動や納期遅延のばらつきに応じて設定します。まずは少なめに設定し、過不足を見ながら調整しましょう。
安全在庫の簡易計算(初心者向け)
参考式
安全在庫 =(最大日販 × 最長リードタイム)-(平均日販 × 平均リードタイム)
発注量の決め方
発注量は「次の入荷までに売れる見込み+安全在庫-現在庫」が基本です。販売が安定するまでは少量で回し、徐々に増やして滞留リスクを抑えましょう。
ABC分類で管理頻度と在庫量を決める方法
売上金額や貢献利益の合計が大きい順にA(重要少数)、B(中位)、C(多数少額)に分けます。運用例は次の表を参考にしてください。
| 分類 | 管理方法 |
|---|---|
| A | 週1回以上チェック。欠品を最優先で防止。安全在庫は十分に確保。 |
| B | 2週間〜月1回チェック。基本の発注点で管理。安定運用重視。 |
| C | 月1回または適宜チェック。在庫は最小限に抑え、滞留対策を優先。 |
滞留在庫の処理と低コスト運用の実践

「今ある在庫をどう動かすか」と「同じことを繰り返さない仕組み」を同時に進めます。費用対効果を比較して現実的な判断をしましょう。
優先処理と判断基準
在庫金額が大きく在庫日数が長いSKUから着手します。判断軸は次の順です:①価格を下げれば動くか、②写真や説明で動くか、③そもそも見込み違いか。手間の小さい施策から試してください。
撤退基準と流動化の具体策
一定期間試しても動かなければ、返送・他販路・処分のいずれかを選ぶ基準を事前に決めておくと迷いません。流動化の手段としては、値下げ、セット化・バンドル、訴求改善、販路の切り替え、返送による自前保管などがあります。各施策は費用と期待効果を比較して選びましょう。
スプレッドシート運用のコツ
見る指標を絞り、商品マスタと日次販売実績を分けて参照で自動計算することで入力の手間とミスを減らせます。最初はA商品から管理を始め、成功したらB、Cへ広げていくのが続けやすい方法です。「完璧より継続」を意識しましょう。
まとめ
在庫問題は「見える化→原価把握→発注ルール→滞留処理」の順で手を打てば改善します。月次・SKUごとに優先度を決め、全原価を把握。販売速度とリードタイムで発注点と安全在庫を定め、ABC分類で管理頻度を振り分けましょう。
小さな改善を積み重ねることで在庫のムダは減り、キャッシュも安定します。まずは棚卸と発注ルールの簡単チェックから始めてください。
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