楽天で冷凍・冷蔵商品を販売し始めたけれど、「梱包や配送のルールをどこまで厳密にすべきかわからない」「送料や保冷材のコストがかさみ、利益が出ているか不安」といった悩みを抱えていませんか。
クール便の運用は、常温商品とは全く異なるノウハウが必要です。温度管理を一歩間違えれば、クレームの山となり、店舗レビューや信用を一瞬で失うリスクがあります。一方で、過剰な梱包は利益を圧迫します。
この記事では、冷凍発送で守るべき梱包の基本ルールから、RMSでの具体的な設定手順、そして「品質を守りつつムダなコストを極限まで抑える工夫」まで、網羅的に解説します。初めての方でも明日から取り入れられる実践的なポイントを中心にまとめましたので、一緒に安心できる発送体制を作っていきましょう。
準備と設計方針:ブレない「ルール作り」

配送で守るべき温度と運用ルールを曖昧にしたままスタートするのは危険です。トラブルが起きた時、現場スタッフが個人の判断で動いてしまうと、対応にバラつきが出るからです。まずは以下の3つの軸を社内で固め、関係者全員に共有します。
① 許容温度帯と品質保持期限
「解けた」と判断する基準はどこか、明確にします。例えば「アイスクリームなら少しでも柔らかくなればNG」「鮮魚ならドリップが出たらNG」など、商品特性に合わせた基準が必要です。
② コストの上限(LTVを見据えて)
資材費と送料に1件あたりいくらかけられるかを算出します。初回購入は赤字でもリピートで回収するのか、初回から黒字化を目指すのかによって、使える資材のグレードが変わります。
③ 記録と責任の所在
いつ、誰が、どの段階で温度チェックを行うかを決めます。「出荷担当者が梱包直前に放射温度計で計測し、伝票番号と紐づけて記録する」といった具体的なフローを構築することで、万が一のクレーム時に「出荷時は正常だった」という証拠を残せます。
楽天RMS設定と配送会社の選定

次に、システムと物流の実務を繋ぎ込みます。楽天の仕様と配送会社のルールには「ズレ」が生じることがあるため、以下の手順で丁寧に確認を行います。
配送会社の最新規約を「一次情報」で確認する
楽天のガイドラインはあくまで総論です。実務ではヤマト運輸や佐川急便などの規定が優先されます。
特に、「サイズ上限と重量制限」「冷凍温度帯の定義(多くの会社は−15℃〜−18℃前後)」「お届け日数(離島などへのリードタイム)」、そして「保管期限(通常3〜4日程度)」といった項目は会社によって大きく異なるため、契約前に必ず確認してください。
RMSでの「配送方法」と「39ショップ」設定
ここが多くの店舗がつまずくポイントです。クール便はコストが高いため、全品送料無料ライン(39ショップ)の対象にしてしまうと、利益が吹き飛ぶ可能性があります。
RMSの「基本情報設定」>「配送方法・送料設定」において、クール便は、楽天市場の共通の送料込みライン(39ショップ)の適用対象外です。そのため、基本設定のままでは3,980円を超えても送料が加算されます。意図せず送料無料にしてしまわないよう、配送グループ設定が『クール便』になっているかを確認しましょう。あるいは、クール便手数料を商品価格に最初から転嫁(送料込み価格)し、送料無料として見せる戦略をとる場合も、詳細な原価計算が必須です。
ドライアイスの法令と安全な取り扱い

冷凍食品、特にアイスクリームなどの輸送に欠かせないドライアイスですが、扱いには法的・物理的な制約があります。
輸送手段による制約(陸送 vs 航空)
陸送(トラック)の場合は基本的に使用可能ですが、密閉による爆発事故を防ぐため、換気穴のある箱を使用するか、完全密閉しない梱包が必要です。一方、航空輸送(北海道・沖縄・一部離島)には非常に厳格なルールがあります。1梱包あたりのドライアイス搭載量に上限があり、外装へのラベル貼付や重量記載が義務付けられています。
航空便を使う可能性があるエリアへは、「ドライアイスを使わない(保冷剤を増量する)」または「陸送でいける範囲に販売エリアを絞る」といった判断も必要です。
現場の安全対策
ドライアイスは−79℃の極低温物質であり、二酸化炭素の塊です。酸欠事故や凍傷を防ぐため、作業場は常に換気扇を回し、スタッフには厚手の革手袋と保護メガネの着用を義務付けてください。新人スタッフへの教育項目として最優先事項です。
品質を守る「梱包の鉄則」と資材選定

梱包の品質=商品の品質です。「冷気を逃がさず、外気を通さず、中で動かさない」。この3つを徹底するための具体的なテクニックを紹介します。
発泡スチロール vs ダンボール+アルミ蒸着
コストと性能のバランスで選びます。断熱性が最強の発泡スチロール箱はアイスや生鮮品に必須ですが、資材費が高く保管場所も取ります。蓋の密着性が重要です。対して、加工品や短時間輸送なら「ダンボール+アルミ保冷袋」でコストを抑えられますが、真夏の冷凍には不向きです。内側にプチプチなどの空気層を作ることで断熱効果を補強しましょう。
「熱橋(ヒートブリッジ)」を防ぐ配置
初心者がやりがちなミスが、商品を箱の壁に直接触れさせてしまうことです。外気の影響を受けやすくなり、そこから溶け始めます。
【正しい配置の鉄則】
- 商品の周り:必ず緩衝材(プチプチや紙)を一巻きし、箱の壁と直接触れないようにする。
- 保冷剤の位置:冷気は上から下へ流れます。商品を一番下に置き、その上に保冷剤やドライアイスを乗せます。
- 隙間埋め:箱の中に空間があると、輸送中の振動で空気が対流し、温度が上がります。隙間は緩衝材でギチギチに埋めてください。
コスト試算と「利益が出る」価格設定

「なんとなく」で価格を決めてはいけません。1件あたりの発送にかかる「実コスト」をシビアに計算しましょう。以下は計算の一例です。
【冷凍便60サイズの実コスト例】
① 基本運賃:800円(契約運賃)
② クール加算:220円
③ 発泡スチロール箱:150円
④ 保冷剤・緩衝材・テープ:50円
⑤ 梱包作業人件費:50円(時給÷個数)
⑥ リスク予備費:30円(返品・破損率1%想定)
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合計配送コスト:1,300円
商品原価に加え、この1,300円を引いても利益が残る売価設定が必要です。もし、低単価商品でこのコストが吸収できない場合は、「3個セット」などのまとめ買いを促進して客単価を上げるか、送料をお客様負担にする勇気を持つ必要があります。
保冷材コストの最適化(早見表の作成)
保冷剤の量は、季節と配送地域によって変動させます。全員が同じ判断ができるよう、作業場に「保冷剤投入量の早見表」を貼り出しましょう。
- 春・秋(翌日着):保冷剤 300g×2個
- 夏場(翌日着):保冷剤 500g×2個 + アルミシート追加
- 翌々日着(北海道・九州):上記に加えドライアイス併用
このように基準を決めることで、過剰梱包によるコストのムダと、保冷不足による事故の両方を防げます。
まとめ
楽天でのクール便運用を成功させるには、まず配送会社規約を確認してルールを策定し、RMSで送料設定を慎重に行います。次に資材を標準化して熱橋対策を施し、最後にダミー出荷でのテストと改善を繰り返す、というステップを踏んでください。
まずは一つの出荷パターン、一つの商品から始め、「小さくテストして、結果を見て修正する」ことを繰り返してください。現場の知恵とデータを積み重ねれば、必ず品質とコストのバランスが取れた強い物流体制ができあがります。今日できることから、一つずつ着手していきましょう。
<ご注意>本記事の内容は、執筆時点の情報に基づいています。楽天RMSの仕様変更や、各配送会社(ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便等)の約款改定により、ルールが変更される場合があります。最新情報は必ず各公式サイトをご確認ください。
