楽天市場での店舗運営において、注文数が増えるのは喜ばしいことですが、同時に課題となるのが「日々の受注処理」です。1日数件のうちはRMS(店舗運営システム)で一件ずつ対応できていても、件数が数十件、百件と増えてくると、手作業での処理には限界が訪れます。
特にセール期間中などは、受注確認や送り状作成、メール対応に追われ、本来注力すべき商品ページ作りや販促企画に時間が割けなくなってしまうことも少なくありません。こうした状況を改善するために検討したいのが、受注管理システムなどを使ったRMS連携(自動化)です。
システムを導入することで、注文の取り込みから出荷指示、発送メールの送信までを効率化でき、正確で安定した店舗運営が可能になります。この記事では、システム導入が初めての方に向けて、現状の課題整理から費用対効果の考え方、そして具体的な導入手順までをわかりやすく解説します。
現状の課題を整理する

システム導入を検討する前に、まずは今の業務で「どこに時間がかかっているか」「どんなミスが起きやすいか」を整理しましょう。現状を正しく把握することで、自社に合ったツール選びができるようになります。
よくある業務のボトルネック
- 確認作業の負担:備考欄の確認やラッピング対応、離島への送料変更など、一件ずつ目視でチェックする作業に時間がかかっている。
- 入力ミスの発生:送り状ソフトへの住所入力や、RMSへの追跡番号の戻し作業を手入力で行っており、時折入力ミスや反映漏れが起きている。
- 在庫更新のタイムラグ:複数店舗を運営している場合、一方で売れた在庫を手動でもう一方の店舗で減らす作業が発生し、更新が間に合わず「売り越し(欠品)」になることがある。
- 業務の属人化:「この処理はこの人しか分からない」という業務が多く、担当者が休むと出荷作業が滞ってしまう。
お客様への影響を考える
これらの課題は、社内の忙しさだけでなく、お客様の体験にも影響します。配送の遅れや誤発送は、店舗の信頼を損なう大きな要因です。
例えば、在庫連携が間に合わずに注文後にキャンセルをお願いすることや、発送完了メールが夜遅くに届くことは、お客様にとって不安要素となります。手作業での運用を続けることが、結果としてリピーターを遠ざける原因になっていないか、一度立ち止まって考える必要があります。
なぜRMS単体では難しくなるのか

注文数が増えるとRMSの標準機能だけで対応しきれなくなるのは、主に「データの連携」と「ルールの複雑化」という二つの理由があります。
データ連携の手間
RMSはあくまで楽天市場内の管理ツールです。そのため、実際の在庫がある倉庫や、AmazonやYahoo!ショッピングといった他のモールとは、データが自動ではつながっていません。
例えば、商品が売れてRMS上の在庫が減っても、手元の在庫表や他モールの在庫数はそのままです。これを常に人間が監視して手動で数字を合わせ続けるのは、注文数が増えれば増えるほど困難になります。特に色やサイズ違い(SKU)が多い商品の場合、手動管理での正確な同期は非常に難易度が高くなります。
判断業務の増加
「北海道・沖縄は送料が変わる」「メール便対応の商品は配送方法を変える」など、EC運営には多くのルールが存在します。
これらを担当者の記憶やメモに頼って処理していると、どうしても判断ミスが起きます。システムを導入することは、こうした「人が判断しているルール」を「システムの設定」に置き換え、自動で振り分けるために行います。
ツール選びで重視したい3つの機能

多くの連携ツールがありますが、「何でもできる」ことよりも「自社の課題を解決できる」ことが重要です。導入時に特に確認しておきたい3つの基本機能を紹介します。
① APIによる「受注の自動取込」
CSVファイルを手動でダウンロード・アップロードする形式ではなく、API(エーピーアイ)を使った自動連携ができるツールを選びましょう。API連携であれば、定期的に自動で注文情報を取り込み、システム内に反映してくれます。
- ステータスの連動:RMS上の「新規注文」から「店舗受付済み」「発送待ち」へのステータス移動を自動で行います。
- 備考欄の判別:「領収書」や「ラッピング」などのキーワードを自動で読み取り、注意が必要な注文としてマークを付けることができます。
- キャンセルの同期:お客様が購入履歴からキャンセル手続きをした場合、システム側の注文情報も自動で取り消し処理が行われます。
② 複数店舗・倉庫との「在庫連携」
複数モールに出店している場合、在庫の自動連携は必須機能です。「A店で売れたら、B店とC店の在庫も自動で減らす」という仕組みです。
また、セット商品を扱っている場合は、「在庫の連動設定」ができるかも確認しましょう。例えば、「Tシャツ単品」が売れたら「Tシャツ2枚セット」の在庫も減らす、といった制御です。自社の商品構成に対応できる在庫機能があるかは、導入前に必ず確認してください。
③ 送り状発行と「発送完了処理」の自動化
ヤマト運輸(B2クラウド)や佐川急便(e飛伝)などの送り状発行システムとデータ連携できる機能です。さらに、発行された「お問い合わせ番号(追跡番号)」をシステムに取り込むだけで、RMS上のステータスを「発送完了」に変更し、お客様へのメール送信まで行える機能があると、夕方の業務負担を大幅に軽減できます。
費用対効果(ROI)を考える

システム導入には月額費用がかかりますが、それによって削減できるコストやリスクと比較して判断することが大切です。
【コスト試算の例:月間500件出荷の店舗】
仮に、スタッフの時給を1,200円とし、1件の受注処理(確認〜送り状作成〜メール送信)に手動で「5分」かかっているとします。
現状の作業コスト:
5分 × 500件 = 2,500分(約41時間)
41時間 × 1,200円 = 約50,000円/月
システム導入により、1件あたりの処理時間が「30秒」程度に短縮されたとします。
導入後の作業コスト:
0.5分 × 500件 = 250分(約4時間)
4時間 × 1,200円 = 約4,800円/月
この試算では、人件費だけで約45,000円の差が出ます。システムの月額費用が1〜2万円程度であれば、コスト面でのメリットは十分に出ると考えられます。
さらに、「誤発送による再送コスト」や「在庫切れによる機会損失」を防げるメリットも含めれば、導入費用以上の効果を期待できるケースが多いです。
スムーズな導入のための3ステップ

システムを契約しても、すぐに全自動化できるわけではありません。設定ミスによるトラブルを防ぐため、以下の3ステップで段階的に進めていきましょう。
STEP1:商品データの整理(コード統一)
導入時につまずきやすいのが、商品コードの不一致です。RMSに登録している「商品管理番号」や「SKU番号」と、倉庫やシステムで管理する品番が完全に一致していないと、連携は正しく動作しません。
例えば、RMSで「item-001-red」、倉庫側で「ITM001-R」となっている場合、これらを統一するか、システム上で紐付ける設定が必要です。まずはExcelなどを使って、すべての場所で商品コードが一致しているか確認するところから始めましょう。
STEP2:テスト運用(動作確認)
最初は在庫連携などの機能をオフにし、受注情報の取り込みだけをテストします。
- 注文情報が正しくシステムに取り込まれているか
- 備考欄の要望(ラッピング等)は反映されているか
- 住所不備などのエラーは検知されているか
この段階では実際の処理はRMSで行い、新システム側は「正しくデータが表示されているか」を確認するだけに留めます。
STEP3:段階的な移行
次に、1日の注文のうち「特定の配送方法(例:メール便のみ)」や「少数の注文」だけを新システムで処理してみます。送り状が正しく発行でき、追跡番号がRMSに戻るかを確認します。
問題がなければ対象を徐々に広げ、最終的にすべての処理をシステム側に移行します。一気に切り替えるのではなく、数日から1週間ほどかけて徐々に移行するのが、トラブルを未然に防ぐコツです。
運用開始時の注意点
導入直後に起こりやすい点を知っておくと、落ち着いて対処できます。
- 初期在庫のズレ:連携開始のタイミングで、RMS側の在庫数とシステム側の在庫数を一致させる必要があります。初期設定時は必ず「在庫の全同期(上書き)」を行いましょう。
- APIの有効期限:楽天のAPIライセンスキーには有効期限があります。更新を忘れると連携が止まってしまうため、カレンダーなどで管理することをおすすめします。
- 必須項目の違い:楽天では必須ではない項目が、他のモールでは必須でエラーになることがあります。各モールの入力ルールを整理しておくと安心です。
まとめ
RMS連携による自動化は、単に作業を楽にするだけでなく、スタッフが安心して働ける環境を作り、お客様へのサービス品質を安定させるための投資です。
まずは自社の課題が「在庫管理」にあるのか、「送り状作成の手間」にあるのかを明確にし、費用対効果を試算してみてください。そして、商品コードの確認などの準備から少しずつ始めてみましょう。受注処理がスムーズに流れるようになれば、その時間を新しい商品の企画や、より丁寧な店舗作りへと活かせるようになります。
<ご注意>本記事の内容は、執筆時点の情報に基づいています。楽天の仕様・APIのルール等は変更される場合があります。最新の情報は、楽天公式サイトやRMSサービススクエア、各ツール提供会社の公式サイトをご確認ください。
